「GSEは既存添加物だし、BNUHC-18は多くのGSE製品と違い、水とGSEだけの水溶液で添加物ゼロなんだから、たとえばお弁当の腐敗防止に使えますよね?」
という質問をいただきました。確かに、お弁当にスプレーすることもできますし、それによって腐敗リスクを低減することはできます。
リスクは減らせるが、その程度が不明
「ではなぜ、そういう使い方を推奨していないのですか?」
鋭いご質問でした。理由はひとつ。BNUHC-18をどの程度、どのように使うと、どんな腐敗を防止できるかという具体的な数字を確認できていないからです。
in vitro(試験管での試験)で、どの菌・真菌・ウイルスにどの濃さなら効き目があるかとか*1、特定のウイルスを何秒で抑制するかといった「除菌剤としての能力」の確認はしています。
一方、いろんな種類のお弁当にスプレーして、5時間後10時間後に菌がどの程度増えているかといった実験は、残念ながらできていません。「リスクは減ります」とは言えますが、「食中毒を防げます」と明言することはできない状態です。
菌が好きな温度(至適温度)を避ける
また、基本を守っていれば、たとえ食中毒原因菌が弁当に潜んだとしても、食中毒はほぼ防げるという事実もあります。GSEをお弁当にスプレーするよりも、食中毒原因菌が増えないようにするほうが、より重要です。
ノロウイルスのような例外もありますが*2、黄色ブドウ球菌など食中毒をおこす病原体の多くは、「増殖すると食中毒をひき起こす」のです。調理中にGSEを多用して病原体をゼロにすれば、食中毒は起きませんが、わずかでも死滅しない病原体が残り、増殖する環境が整ってしまうと、やはり食中毒は起きてしまいます。
多くの食中毒原因菌の至適温度は40度前後です。適度な湿度と栄養があり、40度が長く保たれると、菌は気持ちよく増殖します。逆に言えば、40度前後の温度帯になる時間を短くするだけで、多くの食中毒を防げるわけです。冷蔵庫は冷やす装置というよりは、食品が40度前後の「菌の至適温度」になることを防ぐことで、食中毒原因菌や腐敗菌の増殖を防ぐ装置です。
しっかり加熱し速やかに冷ます
また、ウェルシュ菌(芽胞菌の一種で、高温調理しても死滅しない)という例外を除き、ほとんどの食中毒原因菌・ウイルスは高温の加熱で死滅します。鶏肉はカンピロバクターの食中毒が怖く、表面を炙るくらいではリスクが残る*3のですが、中心部までしっかり加熱すれば問題ありません。
つまり、1)しっかり加熱、2)お弁当は詰めたあと蓋をあけたままにするなどして速やかに冷やしその状態を保つことで、ほとんどの食中毒は防げます。あるいは逆に、高温を保つ方法もある。材料をセットしてスイッチをいれるだけでカレーやシチューができる自動調理器は、完成後に70度以上を保つことで菌の増殖を防いでいます。保温ジャーも話は同じ。40度前後を避けて、高温か低温かを保つことが鍵です。
GSEを併用するとしたら、こんな使い方
お弁当も、必要十分な加熱と適切な温度帯での管理という基本を守っていれば、過剰に食中毒を心配する必要はない、という話です。ただし、GSEを活用できる場面もあります。汚染が気になる食材の除菌と、調理器具の除菌です。
たとえば、「鶏肉は水洗いするな」と注意喚起されているのは、それによってカンピロバクターが周囲に飛び散り、調理器具などを汚染してしまう(コンタミネーションが起きる)からです。その後、鶏肉をいくら加熱したとしても、まな板や包丁、布巾などが汚染されていれば、他の食材によって食中毒が起きてしまいます。
最初にGSEを鶏肉にスプレーし、キッチンペーパーなどで拭き取ってから調理すれば、このリスクを低減できます。他にも牛肉のO157や豚肉のサルモネラ/カンピロバクター/E型肝炎ウイルスなど、生の食材には感染源が付着していることが多いので、調理中と調理後に手やまな板や包丁にGSEを使い、コンタミネーションを防いでください。GSEは既存添加物ですから、多少、食材に残留しても問題がないことがとても大きい(こうした使い方は、とくに断水時の調理にとても有効です。災害対策としてBNUHC-18の備蓄をお勧めしている理由のひとつ)。
また、GSEは土壌にとても多いウェルシュ菌もよく抑制しますので、根菜類を調理する前にスプレーし洗ってから使うと、カレーやシチューのウェルシュ菌食中毒のリスクを減らす効果はあるものと思われます。この菌は100度で数時間加熱しても死滅せず、43‐45度になると活動をして毒素(エンテロトキシン)を出す菌です*4。
こうしたGSEの活用法は、飲食店にも推奨できるものです。
cf.
「GSEは飲食店の味方です」
https://bnuhc.info/archives/2025/gse4safecooking/
煮出した麦茶が早く腐る理由
この話のついでに、水出しの麦茶に比べると、煮出した麦茶のほうが、雑菌が繁殖しやすく、腹痛の原因になったりする理由を書いておきます。煮出したほうが香りもたっておいしいし、最初に加熱殺菌をしっかりやるから、水出しより安全だと思いますよね。じつは正反対なのです。
その理由は、煮沸によって水道水の塩素がすっかり抜けてしまうからです。なにもしなくても3日くらいで塩素は揮発するのですが、この3日間が水出しのアドバンテージになる。煮出した場合は、冷蔵保存した上で、せいぜい2日で飲みきるようにしましょう。
水筒などで持ち歩くなら水出しを選択するほうが安全です(GSEは揮発しにくいので、煮出した後にGSEを添加することで腐敗リスクを減らせますが、そうするよりは、早く飲みきるほうがいいでしょう。コストもかからないし)。夏場によくお腹をこわす人は、ペットボトルのちょび飲みを疑いましょう。口つけによって口内細菌がペットボトル内で増えていることがあります。とくに糖分を含む飲料は要注意です。水筒にして、キャップで飲むようにしてみてください。
マスクも有効
食中毒のほとんどは、ここまで説明してきた対策でリスクを下げられるのですが、例外があります。それがノロウイルスです。ノロウイルスは不顕性感染していることも多いし、発症前にもウイルスを吐出する上、唾液にいますから、飛沫で感染がひろがります。
ノロウイルスが流行している社会状況なら、お弁当づくり、とくに盛りつけのときにマスクすることを勧めます。飛沫を弁当に落とさないためです。流行状況は、東京都感染症情報センターの「感染性胃腸炎」のページで確認可能です。
cf.
感染性胃腸炎の流行状況
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/gastro/gastro/
蛇足
ここまでの説明で、「マスクで菌が増殖して汚い」というのがひどい誤解であることも、おわかりいただけたかと思います。菌は条件が揃わないと増殖はしません。マスクには栄養分も水分もなく、そして40度前後が保たれるわけでもない。付着した菌が増えることは考えられないですね。
注記
*1
菌やウイルスによって、抑制可能な濃度が異なるが、その数値をMIC(Minimum Inhibitory Concentration)という。「最小発育阻止濃度」と訳されている。
*2
ノロウイルスやO157、サルモネラなどはヒトの腸管内で増殖して食中毒をひき起こす。このタイプの菌・ウイルスは、食品が至適温度になることを防いでも、体内で増殖してしまうため、それだけでは食中毒を防ぎきれない。
*3
牛肉はO157が怖いが肉の表面にしかいないので、表面をしっかり加熱すればリスクがなくなる(加工肉や挽き肉を除く)のだが、鶏肉のカンピロバクターは内部まで入り込んでいるので、表面だけの加熱では食中毒リスクはなくならない。
ただし、宮崎県や鹿児島県では鶏肉を生食する文化があるので、特別な衛生基準をつくって対応している(それでも、子どもや高齢者は食べないことが推奨されている。抵抗力の関係で少量の病原体でも食中毒を発症するリスクがあるからだ)。
*4
「作り置きのカレーが危ない」と言われるのはウェルシュ菌が原因。カレーにとくにウェルシュ菌食中毒が多い理由は二つある。第一は、食材が根菜類中心だから、ウェルシュ菌リスクが高いこと。第二は、カレーは大量につくることが多く、その場合、徐々にしか冷えないので、至適温度に長く保たれてしまうことだ。
大量につくった場合、鍋ごと流水で冷ますとか、小分けにして早く冷えるようにするといった工夫で、危なくない作り置きにできる。