ノロは飲食店にとって恐怖のウイルスです。営業停止・禁止処分となる上、お客様への見舞金の負担が待っている。20人の食中毒患者*1に出す治療費・休業補償・慰謝料がひとり5万円で妥結したとしても100万円。弁当では2,000人規模になることも珍しくありませんから、またたく間に1億円の負担になる。PL保険で金銭負担はカバーできるとはいうものの、精神的負担は大きい。
「でもうちは生牡蠣を出していないし、トイレ清掃も徹底しているから、あまり心配はしていない。もちろんPL保険にも入っている」
と思った方こそ、この記事を最後まで読んでください。また、あわせて「家庭内で胃腸炎を防ぐ方法」もお読みください。
ノロウイルスと聞くと反射的に生牡蠣を思いうかべ、「食中毒のひとつ」という認識の人が多いのですが、もはやこの認識が古いのです。2024年から明らかに状況が変わりました。記事中でご紹介する大阪の料亭の食中毒事件(営業禁止処分)は必読の他山の石。けっして「他人事」と思ってはいけないのです。
この記事では、ノロウイルス感染症がすべての飲食店にとって大きなリスクとなっていることを解説するともに、そのリスクを最小限にする方法をご紹介します。
いまやすべての飲食店にノロクラスターのリスク
2024‐2025冬シーズンは驚くべきことに、世界中でノロウイルス感染症が大流行しています。英米も日本も4種類の感染症が同時流行する「クアッドデミック」状態となりました。新型コロナ/インフルエンザ/RSウイルス/ノロウイルスが同時に流行したのです。
ノロウイルスにはふたつの側面があります。第一は、主に生牡蠣を由来とする食中毒としてのノロ、第二は、ヒトからヒトに感染するヒト・ヒト感染症としてのノロです。ノロウイルスがパンデミック状態になっているということは、ヒト・ヒト感染がまた次の食中毒をひき起こすという悪いループが成立してしまった、ということにほかなりません。
すなわち、従来は
「魚介類→ノロ食中毒→周囲に少し広がる→終わり」
という散発的な発生だったのが
「魚介類→ノロ食中毒→ヒト・ヒト感染で別の飲食店で食中毒→大規模化」
という、じつに感染症らしいネットワーク状態へと変化したということです。もはや、ノロウイルスもインフルエンザや新型コロナのように、ヒトからヒトへと流行する感染症のひとつです。
当然、すべての飲食店に、ノロウイルスクラスター発生のリスクがあります。それを如実に示しているのが、2025年3月に起きた和菓子店のノロクラスターでしょう。練り切りやイチゴ大福など、本来、ノロウイルスとは無縁の食べ物しか扱わないお店で集団食中毒が起きています。明らかにヒト・ヒト感染であり、食中毒事件というよりは、食べ物を介したヒト・ヒト感染クラスターと考えたほうがいいケースです。
ヒトとウイルスの変化が流行の根本原因
さて、2024年になって、急に世界規模でノロウイルス感染症が流行を始めたのはなぜでしょうか。原因として考えられるのは次のふたつです。
- ヒトの側がノロウイルスに感染しやすくなっている
- ノロウイルスの変異体が流行をはじめた
ヒトの側では、新型コロナ感染のひろがりが大きい。新型コロナウイルスはヒトの免疫を脆弱にするウイルスですから、感染後はさまざまな感染症にかかりやすくなっています。そこに、ノロウイルスの変異体がかみあってしまった状態です。
免疫にとって新顔の変異体が登場すると、免疫が対応しきれず「波」が起きるのは新型コロナで経験済のこと。過去12年間、GII.4変異体が支配していたノロウイルスの世界を、GII.17変異体がひっくり返し始めた状態です。
このように多くの人(の免疫)にとって新顔の変異体が流行し、ヒト・ヒト感染のループが回り、ノロがパンデミック状態となっている以上、ノロウイルスクラスターはどの飲食店やテイクアウト店でも起きてしまう可能性があります。
「うちは生牡蠣を出していないし、まず大丈夫」
というのは、もう通用しない甘い考えでしかありません。加熱調理するラーメン店であっても、焼豚やシナチク、ホウレンソウやネギなど冷たいものをオープンエア環境に置いて、最後に乗せていますから油断はできません。ノーマスクな調理者がトッピング担当なら、集団食中毒が起きるリスクがあります。
「発症者を休ませれば平気でしょ」
というのも甘すぎる認識です。ノロウイルスは新型コロナウイルスと同様、働く元気のある人が、ウイルスを吐出します。じつに厄介。
これを実感する食中毒事件が、2021年2月に東京で起きた食中毒事件でした。複数の飲食店に勤務する調理担当者が、それぞれのお店で集団食中毒の感染源となっていた事件。厨房をかけもちするほど元気な人が、ノロウイルスをひろめていたのです*3。

過去の「ノロ対策」はもう通用しない
2025年2月には、こうした変化を如実に示す、さらに衝撃的な集団食中毒事件が起きています。2025年2月8日に提供した食事でノロウイルス食中毒をだし、2月15日・16日の2日間、営業停止処分を受けた大阪の料亭です。
問題は、これだけで終わらなかったこと。営業停止も受けたのですから、当然、保健所の指導が入っているし、衛生管理を見直したでしょうし、従業員の体調管理も徹底したことでしょう。そして全員が「二度と食中毒は出すまい」と思っていたに違いないのです。
にもかかわらず、営業再開直後の2月22日・23日の食事で再び、この料亭で摂食した人たちからノロウイルス食中毒患者が出てしまった。結果として、3月2日に厳しい営業禁止処分を受けています。痛い思いをした直後です。「注意していたのに、ノロウイルスは軽々とそれを越えてきた」と考えるのが妥当でしょう。
従来、ノロウイルスの感染経路は、第一に患者の大便からの糞口感染(汚染されたトイレで手指にウイルスを付着させての接触感染)、第二に患者の吐瀉物からの塵埃感染(乾燥後に浮き上がったウイルスを吸いこんでの感染)とされており、対策としては
- トイレのあとの手洗いを徹底すること
- 吐瀉物の処理を慎重にやること
- そもそも体調の悪い人は休むこと
の3点が強調されていました。しかし、これだけでは防ぎきれないことを、この事例が示していると考えるべきです。
ノロウイルスは飛沫感染も空気感染もする
じつは2022年に、ノロウイルスについて従来の常識を変える研究が発表されています。ノロウイルスが唾液腺に感染し、唾液中にもひそむことが判明したのです*4。これをきっかけに、ノロウイルスの感染経路の見直しが進みました。
唾液にウイルスがいるということは、ツバ(飛沫)を料理に飛ばせば感染源になるということです。また、新型コロナウイルスと同様に、唾液からエアロゾルとして空気中に出ますから、ノロウイルスが空気中を漂います*5。
ホテルのレストランでのノロクラスター事例を分析し、ホール担当者が料理を運んだ移動経路に沿って感染者が出ていることを確認した研究もあります。すなわち、厨房で調理担当が徹底的に対策をしても、ホール担当がノーマスクで料理を運び、飛沫をかけながら料理の説明をしていると、ノロウイルスクラスターが発生する可能性があるということです*6。
こうした事態は絶対に避けるべきでしょう。やるべきことは新型コロナの感染対策と話は同じです。
- 飛沫感染の防止
調理担当もホール担当もマスクをして飛沫が料理にかかるのを避ける - 接触感染の防止
手指衛生を頻繁に行う。ノロにはアルコールが効かないから、石鹸を使っての二度洗いとGSE(後述)の利用を推奨 - 空気感染の防止
換気や空気清浄機で、CO2濃度と粒子濃度を下げる - 糞口感染の防止
トイレ清掃を念入りに行い、適切な薬剤を使う
以上の対策で、ノロだけでなく、スタッフが新型コロナに感染するリスクも下げられるので、一石二鳥です。「コロナ禍は明けた」とテレビは連呼していますが、新型コロナはいまだ流行しており、脅威がなくなったわけではありません。
とくに飲食店にとっての問題は、後遺症(Long COVID)です。最大のリスクは味覚・嗅覚を失うこと。調理担当者が味覚・嗅覚を失うとかなり厳しい。ノロウイルスは金銭的経営危機を、新型コロナウイルスは人的経営危機をもたらします。
今後は「もらい事故」のリスクもある。マスクが必須
「食中毒」でとどまっている限りは、飲食店が食品衛生に留意するだけでよかったのですが、飛沫感染・空気感染・接触感染するヒト・ヒト感染症としてノロが流行している以上、それでは済みません。お客様にノロウイルスキャリアがいた場合、宴会で周囲にウイルスをふりまいたり、トイレを汚染したりした結果、集団感染が起きることも想定できるからです。
複数店舗をかけもちする調理人がそれぞれの店舗で食中毒を発生させたことが示しているように、会食に参加する人がじつはノロウイルスキャリアで、周囲にウイルスをふりまいて集団食中毒をおこすことは十分にあり得ることです。
その日、お客様がもちこんだノロウイルスでスタッフも感染した場合、数日後に食中毒が発覚し保健所の調査が入る時点でスタッフも陽性になっていますから、お店にはなんの責任もない、持ち込みウイルスによるもらい事故であることを証明するのは難しい。
ともかくスタッフの全員がマスクをし、手指衛生とトイレを含む環境衛生を徹底し、換気や空気清浄機で空気感染対策をしっかりやり、従業員が感染しないことです。保健所の調査に対して、胸をはって日頃の対策を示し、自分たちの陰性の身をもって「潔白」であることを証明できるようにするしかありません。
GSEの活用がお勧め
手指衛生と環境衛生には、GSEの活用を勧めます。GSEはGrapefruit Seed Extractを略したもの。グレープフルーツ種子抽出物を水溶液にしたものです。飲食店の食中毒リスク・感染症リスクの低減に役立ちます*7。以下、活用の仕方を解説しておきます。
なお、GSEの入手を待たずに「いますぐできること」もあります。1)スタッフ全員がマスクをする、2)石鹸を使った手洗いを励行する、3)換気に気を配るの3点です。パンなどを裸のまま陳列するのもやめたほうがいい。ノロウイルスキャリアのお客様からの飛沫をかぶると、営業停止処分が待っています。また、もしもPL保険に加入していないなら、いますぐ手続きをとりましょう。
テーブル清掃にGSEを使う
ノロがヒト・ヒト感染症として流行しているいまは、お客様がテーブルにノロウイルス入り飛沫をふりまいている可能性もある。これを処理しなければ、次のお客様が接触感染をおこしての「もらい事故」が起きるかもしれません。GSEをテーブル清掃にお使いください。あわせて、いろんな人が手で触れる調味料容器の清掃もしておくといいでしょう。
なお、ノロウイルスにはアルコールが効きません。次亜塩素酸ナトリウム溶液は効果がありますが、スプレーして使うとスタッフがエアロゾルを吸いこんで肺炎をおこす可能性がありますから、要注意です*8。
床清掃・トイレ清掃の最初と最後にGSEを使う
床にはノロウイルスや新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどを含んだ飛沫が落ちています。飲食店ではおしゃべりがつきものですから、飛沫が落ちるテーブルも床も汚染されている可能性が極めて高い。そして、飛沫が乾燥してくると、病原体が宙を舞います(これを吸いこんでの感染を塵埃感染という)。
トイレは水で流した瞬間、ウイルスを含んだエアロゾルが周囲に飛び散ったり、浮遊したりすることがわかっています。蓋をしめて流しても、たいして防げません。床と便器の周囲の壁を清掃してください。従業員専用トイレがない場合は、とくにリスクマネジメントとして、トイレ清掃をていねいに行うことが必須です。ここがいい加減だと、トイレを介して厨房スタッフがノロをもらってしまう可能性が大きくなります。
GSEを最初に使うのは、清掃をする人の感染リスクを下げるためです。そして最後の仕上げに使うのは、GSEの「効果の持続性」に期待するためです。GSEは有効成分(脂肪酸フラボノイド)が揮発しにくいため、除菌効果が持続します。
手指衛生をGSEで頻繁に行う
ヒトが吐き出す飛沫やエアロゾルからノロウイルスがあちこちに飛んでいるわけですから、もはやトイレだけではなく、店内のどこを触っても、手にウイルスが付着する可能性があります。
かといって、店内の露出表面を営業中に清掃するのも至難ですし、作業コストが高い。それよりは、頻繁に手指衛生するほうが確実で合理的です。GSEは化粧水に保湿成分として添加されたりもする薬剤で、頻繁に使っても手荒れすることがありません。
布巾やまな板にGSEをスプレーしながら調理する
調理に布巾(ふきん)を多用する場面を目にすることがあります。包丁を拭いたり、手を拭いたりしている。この布巾がクセモノで、ウイルスや菌などの汚染をひろげてしまうことがあります。営業終了後は次亜塩素酸ナトリウム溶液につけこんでいると思いますが、調理中の汚染にたいしては無力です。
頻繁にGSEを布巾にスプレーするようにしてください。GSEは汚濁環境でも除菌能力がありますし、既存添加物(食品添加物)として認められている成分ですから、キッチンで使っても問題になりません。ほぼ無臭であり、キッチンで頻繁に使っても、料理にヘンな匂いがつくことがない利点もあります。
怖いのはノロウイルスだけではないのは周知の通りです。鶏肉の調理ではカンピロバクターやサルモネラ菌が問題になりますし、牛肉の調理ではO157が心配です。布巾やまな板や包丁などにGSEを使うことを勧めます。GSEは多くの食品に「品質保持剤」として添加されているものです。中身は抗酸化物質ですので、包丁など金属類が錆びることもありません。
当社のBNUHC-18は、グリセリンのような添加物を使わずにGSEを水溶液化することに成功した、世界的にみても珍しいGSE水溶液。高純度精製水とGSEのみの「既存添加物」であり、調理中の布巾やまな板、包丁などに気軽に使える唯一の除菌剤です。
以下の直販サイトでご購入ください。
(複数店舗への大量同時導入については、こちらの窓口からご相談ください。)

また、製品の詳細については、「製品白書」をご覧ください。店舗形態によっては、BNUHC-18とMISTECTの併用をお勧めします。
「MISTECT/BNUHC-18製品白書」
参考
3月1日‐3月14日に報道された飲食店(給食や弁当も含む)のノロウイルス集団食中毒の事例をざっと挙げておきます。括弧内は感染者数と報道日です。全国で流行中であること、生牡蠣を扱っていない飲食店が多いことがわかるでしょう。
- 福井の飲食店(8人。2025/3/5)
- 大阪の老人ホーム(28人。2025/3/6)
- 岡山の弁当店(11人。2025/3/6)
- 鳥取の飲食店(17人。2025/3/6)
- 鳥取の旅館(76人。2025/3/6)
- 岐阜の弁当店(450人以上。1人死亡。2025/3/7)
- 和歌山の焼肉店(56人。2025/3/7)
- 大分の旅館(15人。2025/3/8)
- 兵庫の弁当店(32人。2025/3/8)
- 長野の弁当店(35人。2025/3/9)
- 宮崎の飲食店(10人。2025/3/9)
- 鳥取の飲食店(17人。2025/3/9)
- 広島のホテル内の和食店(11人。2025/3/10)
- 盛岡の小学校等(137人。2025/3/11)
- 福岡の保育施設(39人。2025/3/11)
- 名古屋のかに料理店(37人。2025/3/12)
- 北海道の焼肉店(14人。2025/3/13)
- 名古屋の寿司店(12人。2025/3/13)
- 鹿児島の居酒屋(14人。2025/3/14)
- 静岡のグループホーム(10人。2025/3/14)
注記
*1
2025年1月1日‐3月5日までに厚労省に報告のあったノロウイルス食中毒の事例から平均患者数を計算すると、1件あたり約23人になる。なお、弁当は数が出るのではるかに大規模になりやすく、2,000人以上の患者が出ることも珍しくない。
*2
GII.17は2024年に「アメリカとヨーロッパ6カ国で増加し始めた」と報告された変異体。
https://www.science.org/content/article/why-ferrari-viruses-surging-through-northern-hemisphere
*3
「同一の調理従事者が勤務した複数の飲食店におけるノロウイルスGⅡ.17[P17]による食中毒事例」(国立感染症研究所。2021/8/31)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrd/10604-498d01.html
*4
Enteric viruses replicate in salivary glands and infect through saliva
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04895-8
*5
Surveillance of norovirus, SARS-CoV-2, and bocavirus in air samples collected from a tertiary care hospital in Thailand
https://doi.org/10.1038/s41598-024-73369-w
*6
Airborne or Fomite Transmission for Norovirus? A Case Study Revisited
https://doi.org/10.3390/ijerph14121571
*7
GSEは汚濁環境においても除菌効果が高いことを確認した研究
「“除菌”などをうたった製品の消毒効果」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei/36/3/36_157/_pdf/-char/ja
ノロウイルス代替のネコカリシウイルスをGSEが抑制することを確認した研究
「ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を示す食品添加物および食品素材の探索」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/36/2/36_100/_pdf/-char/ja
*8
新型コロナ禍初期、レンタカーの室内清掃に次亜塩素酸ナトリウムスプレーを使って肺炎を起こした事例が出ている。スプレー後に空気中を漂う次亜塩素酸ナトリウムのエアロゾルを吸いこんだことが原因。
また、塩素系の薬剤を使うと、空間中を漂う新型コロナウイルスの感染性が長くもつ可能性もある。
cf.
Differences in airborne stability of SARS-CoV-2 variants of concern is impacted by alkalinity of surrogates of respiratory aerosol
https://doi.org/10.1098/rsif.2023.0062